CADデータのバックアップ方法を考える

CADのデータは破損や消失すると大きな損失を被る可能性があるため、バックアップを怠らないことが重要です。CADデータのバックアップ方法を考えてみましょう。

2024年07月24日

CADデータのバックアップ方法を考える

代表の佐野です。今日はデータやファイルを扱ううえでの大事な話、CADデータのバックアップについてお話しします。

CADデータのバックアップ方法を考える

2D、3DのCADで制作する設計データは、作業中にデータの不良やCAD自体の問題で破損が発生することがあります。バックアップを怠ると大きな損失を被る可能性があります。そこで今回はCADデータのバックアップ方法を考えてみましょう。

扱うCADでできることが違ったり、設計時の進め方、扱うシステムや環境のポリシーもあるので、一概にこれがベストというものはありません。今回はいくつかの汎用的な方法の特徴をまとめてみました。

バックアップ方法

手動バックアップ

手動バックアップは、作業者が定期的にファイルのコピーを作成し管理する方法です。管理する場合は、フォルダーで分ける、ファイルに日付や番号を割り振るような方法です。

作業者が自分のタイミングでバックアップを取れるため、大きな変更がある場合に有効です。

(参考例: いつ何回履歴を作ったか、履歴の意味をファイル名に載せるとわかりやすい)

この方法は作業者の意識に依存するため、忘れたり手間がかかるというデメリットがあります。また共同で作業する際にルールを決めて運用しないと、バックアップ自体の管理が難しくなる場合もあります。

(よくない例: とりあえずコピーした結果だけでファイル名を変えずに済ませると、あとで見た時に何がどの状態かわからない)

今でも一時的に作業のダンプを取りたい時にはよく使う手法と思います。自身が管理できる範囲で運用するにとどめることをオススメします。

CADソフトの内蔵バックアップ機能

CADソフト自体が提供するバックアップ機能を使うことも良いでしょう。弊社が利用しているKeyCreatorには、ファイルを保存する際に保存前のファイルを保持する機能や、時間ごとに自動保存する機能があります。この機能は他のCADでも同様の機能が内蔵されることが多いです。

参考例として、弊社が利用しているKeyCreatorのバックアップ機能の設定です。バックアップの頻度と保存先の変更ができます。

自動バックアップがされている様子

こちらの良い点は自動で最新のバックアップが取れるため、安心して作業できる点です。デメリットはソフト自体に依存するため、ソフトの不具合時には対応できない場合があったり、時間ごとの保存機能は作業中に保存を始めてしまうので、タイミングが合わない場合もあります。

クラウドやローカルのストレージサービスの利用

クラウドストレージを利用したりローカル環境でストレージシステムを構築してバックアップを取る方法もあります。ファイル同期ツールやストレージシステムを使うことで、データ共有と履歴管理を行うことができます。

弊社では市販されているNASを利用し、付属されているファイル同期サービスを使ってデータ共有と履歴管理を行っています。

その他、ローカルではSyncthingやNextcloudなどのオープンソース系のソフトウェア、クラウドサービスではDropboxやGoogle Drive、OneDriveなどがあります。

メリットはストレージサービスによりますが、自動的にサーバーへ同期を取るのと、ファイルの保存がされるごとに履歴としてバックアップが取られる点です。複数人で同じファイルを利用する際に競合が発生する可能性がありますが、競合検知をして差分を保存してくれる機能もあります。

(Googleドライブの例: 作業をすると自動的に履歴が作成される)

デメリットはインターネット接続が必要であることや、同期の遅延が発生する。クラウドサービスへ設計データを保存する場合はファイルの共有設定には注意が必要です。

OS全体のバックアップ

今まではファイルに対してのバックアップ方法を見てきましたが、OS全体のバックアップを取る方法もあります。OS全体のバックアップを取ることで、システム全体のリカバリーが可能であり、設定や環境も含めて復元できます。

弊社ではNASで利用可能な専用のバックアップサービスを活用しています。他にもOS自体のバックアップを利用できます。

デメリットとしては、システムごとのバックアップをするため大容量のストレージが必要であることや、バックアップに時間がかかることが挙げられます。またリアルタイムでのデータ保護には向かない場合があります。


ここまでがよく活用されるバックアップの種類になります。これ以外の方法として、バージョン管理ツールを利用する方法もあります。

バージョン管理ツールの利用

こちらはどちらかというとソフトウェア開発をされている方が利用することが多いかもしれませんが、バージョン管理ツールを利用することで、データの変更履歴を管理できます。

CADに備わっているバージョン管理システム、gitやSubversionなどのバージョン管理ツールを使うことで、ファイルの変更履歴を管理できます。バージョン管理ツールは、ファイルの変更履歴を管理することができるため、チームでの作業や複数のデバイスでの作業に適しています。

(以下はgitを使った作業履歴の管理例)

> git log
commit e911f5c7c728a9fc08f63943ff987038fbf9f8a1 (HEAD -> main)
Author: Hiroshi Sano <******@***>
Date:   Wed Jul 10 16:32:05 2024 +0900

    today update: 工程検討

commit 7d22fe5ab1b2d198c1c615b032993a456319ea16
Author: Hiroshi Sano <******@***>
Date:   Wed Jul 10 13:46:36 2024 +0900

    wip update

commit d94ea0fc882a4b49e9fc1aa0766e3f432699a6b1
Author: Hiroshi Sano <******@***>
Date:   Wed Jul 10 11:16:05 2024 +0900

    first commit

デメリットは、ユーザーがバージョン管理ツール自体に慣れている必要がある、学習するにあたって時間がかかること、設定や運用に専門知識が必要であることが挙げられます。またCAD系のファイルはほとんどがバイナリファイルなので、バージョン管理ツールの利用がしづらい場合もあります。

複数のバックアップ方法を組み合わせることが大事

ここまでが単体のバックアップ方法の紹介でした。これらがすべて考慮するべきかというとその時その時の状況によります。

ただこの中の1つだけ行っていたら問題ないかというとそうではなく、実際の運用では複数の方法を組み合わせることが多いです。

たとえば以下のような組み合わせも考えられます。

  • 1の手動バックアップと3のファイル同期ツールを組み合わせる: 重要な変更時に手動でバックアップを取り、それ以外は自動でバックアップを取る
  • 1の手動バックアップと2のCADソフト内蔵のバックアップ機能を組み合わせる: 手動バックアップで変更点のバックアップを取りやすくするが、CADソフト内蔵のバックアップ機能でスナップショットの扱いのバックアップを取る

4のシステム全体のバックアップはここでのバックアップの文脈からは外れてしまうのですが、定期的に保存することで、システム全体が動かなくなった時の最後の手段としてファイルのリカバリーに利用もできます。

(ここでのバックアップの組み合わせを考えると、1-2、1-3、2-3のような組み合わせが多いと思います。4は緊急時の保全としてすべてのシステムで行うべき対策でもあるからです)

まとめ

最後に、バックアップ方法を表にまとめてみました。

バックアップ方法 メリット デメリット
1. ユーザーによる手動バックアップ ユーザーが意識的に管理できる
重要な変更時に確実にバックアップできる
共同作業者とのルール遵守が必要
管理が煩雑になりやすい
2. CADソフト内蔵のバックアップ機能 自動的に行われる
最新の変更を高頻度で保存
CADソフト固有の機能に依存
ソフトの不具合時にリスクあり
3. ファイル同期ツール 自動的に同期・バックアップ
複数デバイスでアクセス可能
インターネット(ネットワーク)接続が必要
同期の遅延の可能性
外部公開に気をつける必要あり
4. システム全体のバックアップ OS設定やCAD設定も含めて保存
システム全体の復元が可能
大容量のストレージが必要
バックアップに時間がかかる
5. バージョン管理ツール 変更履歴の詳細な管理が可能
チーム作業に適している
学習に時間がかかる
設定や運用に専門知識が必要

これらを全部行える環境は理想と思いますが、コストの問題やバックアップ計画が複雑になる問題もあるので、バランスを考える必要があります。

チームの規模や社内の運用状況でベストな方法はその時の状況にもよります。どのようなバックアップ方法を選択するかの検討の助けになればと思います。


弊社では、CADデータのバックアップ方法、設計データ管理についてもアドバイスやサポート可能です。ご相談はお気軽にお問い合わせください。

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